こんにちは、精神科医しょうです。
先日、
診察の終わりに、
ある方にこう尋ねました。
「これから、
どうしたいですか?」
その方は、
少し困った顔をして、
長い沈黙のあと、
こう答えました。
「……分からないんです」
それは、
答えを迷っている沈黙ではなく、
探す場所そのものが
見つからない
——そんな沈黙に見えました。
この「どうしたい?」という質問。
普通なら、
何気ないものです。
でも、
外来では、
この質問が一番苦しい
とおっしゃる方が、
本当に多いのです。
たとえば、
ランチのお店を決める時。
「どこがいい?」
——なんでもいいです。
休日の予定を聞かれた時。
「何かしたいことある?」
——特に……。
進路や、
仕事の希望を聞かれた時。
「あなたはどうしたい?」
——固まってしまう。
以前、
読者の方にアンケートを取ったことがあります。
「なりたい理想の未来の姿を
教えてください」
という質問でした。
その中に、
こんな回答がありました。
「考えても、
これだ、というのがない」
理想を聞かれているのに、
理想が、
浮かばない。
この一文を読んだ時、
私は、
しばらく動けませんでした。
こういう時、
周りからは、
こう言われがちです。
「もっとわがままでいいんだよ」
「自分の好きにしていいんだよ」
でも、
言われた本人は、
たいてい、
こう感じている。
——好きにしていいと言われても、
その”好き”が、
分からない。
これは、
遠慮しているのとは、
少し違います。
遠慮なら、
本当は
「こうしたい」があって、
それを、
言わずに飲み込んでいる。
でも、
この状態は、
そもそも、
何も浮かんでいない。
では、
なぜ浮かばなくなるのか。
診察の中で、
話を聞いていると、
多くの方が、
共通してこうおっしゃいます。
「何かを考える時、
自分がどうしたいかより先に、
相手がどう思うか
が、
浮かんでしまうんです」
たとえば、
食べたいものを聞かれた時。
一瞬、
「パスタかな」
と思う。
でも、
その次の瞬間には、
——相手は和食の気分かもしれない。
——高い店だと思われないか。
——決めて、
外れたら申し訳ない。
そうやって、
検算が始まる。
そして、
結論はいつも同じ。
「なんでもいいです」
これを、
十年、
二十年と、
繰り返す。
すると、
どうなるか。
希望が浮かぶ前に、
消えるようになる。
言わないのではなく、
浮かばなくなる。
これは、
とても効率のいい
省エネだと思います。
どうせ通さないなら、
最初から
思いつかない方が、
傷つかずに済むから。
正直に書くと、
以前の私は、
外来でこう言っていました。
「もっと、
自分を大事にしてくださいね」
——今思うと、
とても浅かったと感じます。
大事にすべき
「自分の望み」が
見つからない人に、
「それを大事にしろ」
と言うのは、
地図を持っていない人に、
「目的地を目指せ」
と言うようなものだったのかもしれません。
ただ、
ここで、
希望のある話をひとつ。
臨床をしていて感じるのは、
その力が
なくなったわけではない
ということです。
長く使わなかったから、
錆びついて、
動きが鈍くなっているだけ。
そして、
錆びは、
少しずつなら取れていきます。
ただし、
いきなり、
「人生でどうしたいか」
を考えるのは、
おすすめしません。
大きすぎて、
また固まってしまうからです。
そのかわりに、
私が診察でお伝えするのは、
もっと小さいことです。
今日の飲み物は、
温かいのと冷たいの、
どっちがいい?
この道と、
あっちの道、
どっちを通りたい?
今、
座りたい?
立っていたい?
——正解のない、
誰にも迷惑がかからない、
小さな選択。
好き嫌いというのは、
希望の、
一番小さい単位です。
そこがもう一度動き出すと、
不思議なもので、
少しずつ、
大きな「どうしたい」にも、
手が届くようになっていきます。
診察の中で、
「そういえば私、
本当はこうしたかったのかも」
という言葉が、
ふと出てくる瞬間があります。
その時、
私はいつも、
大きな回復だ
と感じます。
最後に。
もし今、
「あなたはどうしたい?」
と聞かれて、
固まってしまう人がいたら。
それは、
あなたに
意志がないからではありません。
長い間、
誰かの正解を探すことで、
自分を守ってきた
ということです。
だから、
焦らなくていい。
まずは、
今日の飲み物から。
いつか、
「私は、
こうしたい」
と、
ありのままの言葉で
言える日が、
きっと来ると思います。




そう。それしか、生きる方法が無かった。飲み物から。。素敵なアイデアです。そういえば、やっと、最近、◯タバで、好みの注文ができました。今まで、できなかった。好みはホットのミストのトールサイズのソイミルクです。長かったなぁ。ここまで来るのに。
遠慮して本音を隠しているのではなく、相手の気持ちを先回りして考えるうちに「希望そのものが最初から浮かばなくなってしまう」という仕組みにすごく納得しました。どうせ通らないなら思いつかない方が傷つかずに済むという、自分を守るための省エネだったと分かると、答えられない自分を責める気持ちが和らぎますね。